あうとどあデブ

悠々自適アウトドアライフ

こうして名店は死んでいく

私はうどんが大好きだ。

好きな食べ物は?と聞かれるとほぼ「うどん」と答える程にうどんが好きだ。

うどんが好物になったのには理由がある。

 

私が住む札幌市西区には老舗のうどん屋がある。

店舗名は伏せるが、煮込みうどんと鍋焼きうどんが有名なお店だ。

そのお店には、私が幼稚園児の頃から通っている。

私が体調を崩すと必ずそのうどん屋に両親が連れて行ってくれた。

私は迷わず二枚せいろを注文し、たいらげた。

どんなに食欲がなくても、そのお店に行けばお腹が空いた。

ぷりっぷりの麺、みじん切りの青ネギ、出汁の効いた麺つゆ。

完璧だった。

体調を崩すと両親が連れて行ってくれるので、体調を崩しても辛くなかった。

 

私が成長し、函館の学校に通うようになっても、帰省したときは必ず食べに行った。

両親と、時には友達と、あるいは一人で。

昔は二枚せいろばかりだったが、半々くらいで煮込みうどんも食べるようになった。

味は昔高熱を出しながら食べたあの頃と同じだった。

 

私が函館から札幌の学校に編入した頃、お店の雰囲気が変わった。

メニューは文字だけの昔ながらのものから、ラミネート加工された写真付きのものに。

ランチドリンクなんてものも始まっていた。

厨房を見ると、腰を曲げながらうどんを茹でていたお爺さんの姿は無かった。

きっと代替わりしたんだろう。

母と食べた煮込みうどんはあの頃とほとんど変わらなかった。

 

近くに行くたびお店を覗くがランチタイムは15時まで。

14時30分にはラストオーダーだった。

14時までアルバイトのある私には厳しい時間だった。

何度目かのチャレンジで今日ようやく席につけた。

時刻は14時過ぎ。私以外のお客さんは1人だけ。

私は煮込みうどんを注文した。

このお店は決して安くはないし、早く出てくるわけでもない。

ランチ時の提供までは20分近く掛かる。

そう思ってTwitterを眺めていると体感で10分程度で来た。

「随分早いな。待っているのが私だけだとこんなもんか。」

麺は固茹でだった。

私が小さい頃にうどんの煮込み時間を短縮したときと同じ感触だった。

違和感を覚えながら食べていると、従業員が外に出ていった。

どうやら営業中の札を準備中の札に変えたらしい。

時刻は14時15分頃。ラストオーダーの14時30分には随分早い。

「私が何度チャレンジしても準備中だったのはこういうことか。」合点がいった。

完食した。しかし、昔の美味しさはそこにはなかった。

 

私はきっともうあのお店には行かないだろう。

今まで生きてきた中で一番通っていたお店。私と家族の思い出のお店。

私が好きだったあのお店は先代と共に亡くなったのかもしれない。